無事日記

本や映画や芝居やそこらへんの雑記です。

ETV特集「Reborn〜再生を描く」 GOMAさんのドキュメンタリー

この前、EテレETV特集「Reborn〜再生を描く」という、 ディジュリドゥ奏者で画家であるGOMAさんのドキュメンタリーがやっていた。たまたま見た。以前、「フラッシュバックメモリーズ」という映画でGOMAさんのことは知っていた。

GOMAさんは8年前、車の事故により高次脳機能障害を負い、記憶や時間の感覚などを失ったが、絵の才能を得たという。事故から二日後に唐突に絵を描き始め、それから絵を描かずにはいられず、浮かぶイメージを描き続けている。GOMAさんの絵は点描画で、確か番組内で、事故のときに「光」を見て、そのイメージを書いていると言っていたと思う。

素人目だけど、とても細かい繊細な色使いで、点の集合というところでは草間弥生さんに通じるような印象もある。

でも、GOMAさんは、自分は狂っているのではないかと考えてしまうし、過去の自分と今の自分の間にいる、と仰る。事故に遭う前の自分と違う、今の自分を受け入れられずにいる、と。

GOMAさんは、自分は一体なんなのか、を問いにアメリカへ行き、脳を調べ、近い境遇の人に会いに行く、という番組。

脳を調べてもらうと、後天性サヴァン症候群だといわれる。普段は脳が抑制している回路が事故により変化したらしい。そして後天性サヴァンの人を訪ねる。

一人目は、事故後に音楽の才能が目覚めたという方。事後の5日後に友達の家に行ったら、ピアノがあり、衝動が抑えられず4、5時間弾いたらしい。白と黒のブロックが頭の周りに飛んでいて、その通りに鍵盤を弾けば曲になっていると言っていた。

その方は後天性サヴァンを「自由」と呼んだ。音楽をせずには生きていけないと。事故前よりの今の方が良いと肯定的に受け入れていた。

二人目は、事故後に、線で幾何学模様を書き始め、数学の才能を発揮した方。この方も事故後より“今”を受け入れていた。数学によって今の奥さんとの出会いももたらされたらしい。

最後に50年程サヴァンの研究をされている方のことろを訪ねる。

この時点でGOMAさんはまだ今の自分を受け入れられていない。

その方の経験に基づいた話しでは、後天性サヴァンになった人は自分が狂っているのではという恐怖に見舞われる。そして、他人に自分が狂っていると思われないようにそれを隠す。でも、得た才能と引き換えに失ったものもあるし、何かを失ったと思うかもしれないが、その才能がこれからなくなることはない、と。

もう、失わないんだ、と。

もう失わないのだから、その得た才能を思う存分伸ばせばよい。GOMAさんは泣いていた。GOMAさんは「この瞬間に、新しい自分になれた」と言っていた。新しい自分を受け入れられた、と。

 

なんだか静かにじーんとしながらこの番組を見てしまった。人の“気づき”の瞬間だらけだったからだ。GOMAさんが、気づく瞬間が映っていた。

自分が感じたり持っているけどまだ名前が付いていないもの、というのか、自分の中に埋まっているものを掘り起こしてもらってようやく実態がわかったかのような、気づいたことによる安心、自分への理解が映っていた。それによって恐怖や不安を受け入れられたのではないだろうか。いや、そんなに単純なものだけではないだろう。

もう失うことはないと言われたときの、一瞬で何かが晴れたような澄んだようなGOMAさんの表情に感動してしまった。言葉によって人は救われるんだとつくづく思うのだった。

 

https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/20/2259598/index.html